Art Pot

そして、蚤は高く跳ぶ。 前編

著者:明るいあかり@ユリ

「歌…??」

それは、かよにとっては突然の出来事であった。


「そう、歌だよかよちゃん!」


ズビシッ!っと音が聞こえてきそうな勢いで、部長は私の方を指差した。


何も部室でそんな大声で叫ばなくても聞こえてるよ…。


……指されたからみんなこっち向くし。


「は、はぁ…はい…ははは。」


とりあえず笑っておこう。


部長が言った歌の意味はわからないけど。


「今度の絵のテーマは歌で行こうと思んだよね。」


それがよくわからないんだけど…。


ここ美術部なわけだし。


「えー、ようは自分が好きな歌を、一枚の絵にして表現するってこと!」


あ、そういうことか。


初めからそう言ってくれればみんなの前で恥かかなくて済んだのに…。



「けど、歌だけじゃジャンルが広すぎるから…。
そうだな、童謡とかの子どもの歌にしよう!」


…子どもの歌。



高校生がやることなんだろうか?


私は絵本作家になりたいから構わない、



けど…。



「えー、普通にアーティストの曲がいいな。」


「歌手の歌の方が描きやすーい。」


「アニソンはアウト??」


……やっぱりみんな文句言ってる。


「みんな静かに!あとそれから…。」





ーーーーーー


部長が言っていた。


今回の作品はコンクールとは関係ない、って。



どうやら、単純な絵の練習らしい。


出来た作品はみんなで見せあって、投票して一位を決めて、


それで一位になった子は今後より一層の努力を、


それ以外の子はもっと努力をする…というお互いを高めあうプログラムだって熱弁してた。



誰かが『どっちも努力じゃん!』って突っ込んでたな。



「うーん…。」



にしても



何の歌を選ぼう??



かえるのうた…チューリップ……かたつむり…そこらへんはみんな描いてきそうだな。


むすんでひらいてとかは?


……あれって何を結んで、何を開いてる歌なんだろ。


お弁当箱の歌!


……歌詞通りのお弁当描いて終わりそう。


あんたがどこさって子どもの歌??



どうせなら、みんなが描いてこなさそうなのがいい。



……けど子どもの歌に関する知識、そこまでないんだよな。


「…ゃん。」




アニメの歌はダメらしいし…子どもも観るのに。


あ、でも確かにそうしたらそのアニメの絵を描いちゃうもんね。


「……よちゃん。」


そもそも、どこからが子どもの歌なんだろう??


小学校で習う曲はセーフでそれより上はアウトなのかな?


「かよちゃん!」


「!
は、はい!」


「……没頭するタイプなのは知ってるけど。
さっきからずっと腕組んで固まってたよー。そろそろ部室閉めるからね。」


……。


私、


部長の熱弁が終わってから今の今までずっと考えてた。


数時間この体勢で座ってたなんて…。


ちょっと、いや、だいぶ



「すみません、不気味でした?」


「んー…ノーコメントで。」





ーーー翌日



昼休みの教室ーーー



少女は一人、ある本を片手に、朝コンビニで買ったパンを食べていた。


味わうことなくそれを口へ入れる。


「もぐもぐ…もぐもぐ……ぬぅ。」


こういう時、成績が良くて本当にラッキーだったって思う。


全然仲良くない音楽の先生に、『歌の本貸してください』って言ったら一発だもん。


やっぱり先生達の間でも、『良い』生徒の話はするのかな?


しかもその本が『子どもの歌ベスト100』ときたもんだ。


高校の先生でも、こんなの持ってるんだ。


一ページ目は…あ、ちょうちょう。


不思議な色の蝶々を描くのもありだけど、有名な歌だし、みんなと被りそう。


次は、、かえるのうた。


これも普通。



「……もぐ、前の方に載ってるのは……んぐ…有名どころだな。」


ばーっととばして後ろの方はどうなってんだろ?


……。


オーラ リー???


知らないな…。


ここまで知らない歌だと、描きにくいな。



…クラリネットをこわしちゃった、かぁ。


ここらへんだったらいいかも。


…ん?


「ほほひょふは?(この曲は?)」


ちゃんと聞いたことはないけど…なんとなく覚えてる。


この曲ってこんな歌詞だったんだ。



確か昔、子ども向け番組の歌のコーナーで流れてたような…。



タイトルは…


「ふうひひほふふぉほほひひへ…。」


「おい。」


「ひゃい!?」


びくん、と背中が跳ね上がる。


だってこの声は…。


「またお前か、本読みながら飯食うな。」


生活指導の先生だ…。


教室のドアが開けっぱなしだから気付かれたんだ、きっと。


わざわざ昼休みまで見回りしなくていいのに。


「まぁ、次から気を付けたらいいが。
だがな…。」


「?」



「飯食いながら一人で喋るのは不気味だから止めた方がいいと思うぞ。
生活指導とか関係なく。」



……わざわざある程度観察してから注意しなくていいのに。


「ぺぺぺぺん(すみません)……んぐもぐ。」