Art Pot

サカナはいつか、前を向く

著者:明るいあかり@ユリ

幸せな時は、永く続かない。


そんなのはわかりきってること。


だから、悔しかった。





少女は微睡みから覚めてしまった自分を責めた。



「……っ…。」



『なんで』ばかりが浮かぶから


少女は自分を責めた。



「はは…。」


ゴツン、と


自嘲気味に机に打ち付けた頭を撫でることなく


少女は目を潤ませた。



その湿った瞳でとらえたものを眺め、彼女は独り言ちた。


「まだこんな時間…。」


両眼に映った時計には、無機質なデジタル表記でAM2:24と記されていた。


だから、


責める。



もっと眠れたのに。
もっと一緒にいられたのに、と。



「…体、痛い。」


だが、所詮は微睡み。



永くは、続かない。


「……。」


最近撮影やスタッフさんとの打ち合わせで忙しかったからかな。


0時頃帰って来て、部屋入って、なんやかんやしてそれで…。


……。


いつ机に座ったまま寝ちゃったんだろう。


「かよちゃん、可愛かったな。」


凄く、幸せな夢だった。


夢だから細かく覚えてないけど


凄く幸せだった。



あれはかよちゃんとデートしてる夢だったのかな?


何か遊園地っぽいところ二人でまわって

スタバっぽいところ入って


お喋りして


それで…。



……


なんで覚めちゃったんだろ。


座ったまま寝たから体痛いし。






ちゃんとベッドで寝てたら


朝まで起きなかったのかな。



それまでずっと



二人でいられたのかな。



「っ、ぅ!」


責める。



再び額を机に叩きつける。


目に溜まった水分は、ほぼゼロ距離で机上に落ちた。


その涙は痛さ故のものではない。



悔しかったから



流れてしまった。



悔しかったから


責めるのを止めるまで、涙は止まらない。


「う…く、……ぅう!」


本当は大きな声で、小さい子のように泣きたい。


が、理性がそれを邪魔する。



その理性で


彼女は考える。


「…なんで、」


なんでかよちゃんは私のこと好きになってくれないの?


私が女だから?


だったらなんで私は男に生まれなかったのかな?



なんで女じゃダメなの?


誰にも伝えるつもりのないこの気持ちは、


なんで伝えたらダメなものなの?


なんでなんでなんでなんで



「…わからないや。」


なんでわからないかが、わからない。


『なんで』が止まらない。


考える頭の前面は赤く腫れ



瞳はそれ以上の赤を帯びていた。


ふと、少女は辺りを見渡す。


双眸に映るのは乱雑に散らかった物、もの、モノ。


負の感情を孕んだ者は、それらを見てまた、考える。


「そういえばこないだのテスト、点数良かったな。」


偶然目に映ったぬいぐるみの上には、何枚もの答案用紙が無造作に置かれていた。


何故そんなものがぬいぐるみの上にあるのか、それは今どうでもいいこと。


多忙をきわめた者にはどうでもいいこと。


だけど、感情が止まらない。


「あ…。」



あの時誰かが言ってた。


テスト返しの時、誰かが言ってた。


『数学ってさ、わけわからないよなー。なーんか、何がわからないかが、わからないっていうか。』


……。


私は別に、そうは思わない。


そりゃ、だって、得意なもんは得意だし。






けど、さ


わからない人には、一生わからないものなんだろうね。


だったら



私の『なんで』は



ずっとわからないままなの?



わかったら、次は



夢じゃなくてホントに



幸せになれるの、かな。


あぁ、これも誰かが言ってた。


『大人になったらテストの点数なんてどうでも良かったって思えるよ。低かったら将来、逆に笑い話にすらできるようになる。』って。


じゃあさじゃあさ、



大人になったら私もこの気持ちを



過去のモノとして笑えるようになるの?


普通に男の人と結婚して子ども生んでおばちゃんになって


それで昔はこんなんだったって、笑えるの?


「…馬鹿か、私は。テストと恋愛は別じゃん。」






けど、今好きな人と将来一緒になれないなんて、よくある話だよね。



でも



でも、



私は今、幸せになりたい。


「…あー、もうダメだ。」


さやは赤く染まった瞳を閉じながら、自分の見識の狭さに辟易した。



考えたって仕方がない。


『なんで』を考えても仕方がない。


私は私だから良いのだ、と。




責めるのを止めた彼女が、この日、泣くことはもうなかった。


ベッドの上で温もりに包まれながら、彼女は朝が来るまで眠った。